特定非常災害と特許庁への手続期間の延長
1月1日午後4時10分、私は近所の喫茶店で本を読んでいました。やや大きい揺れに気づきましたが、逃げ出すほどのこともありませんでしたので読み続けていますと、その揺れが結構長く続きます。隣の席の見知らぬ人と「大きそうですね。どこでしょう?」と話しあいましたが、そのうちに収まり、そのときはスマホを見ることもなく読書を続けました。能登半島地震を知ったのは夕方のニュースでした。その時点でも地震の大きさはたいへんなものであることが分かりましたが、その後数日間報道された輪島市の朝市通りの大火災や、多くの山崩れによる孤立集落の発生などを見ますと、被災状況は想像以上のものでした。災害に遭われた皆様には謹んでお見舞い申し上げます。
特許に関しては様々な手続がありますが、多くはそのための期間が法律で定められていたり、審査官等から指定されます。特許庁では、業務開始日である1月4日に「令和6年能登半島地震により影響を受けた手続の取扱いについて」(https://www.jpo.go.jp/news/koho/saigai/saigai-tetsuduki-20240104.html)をホームページに掲載し、指定された期間内に手続ができなくなった方については指定期間を徒過した場合でも原則として有効な手続となるよう対応することとしました。また、法律で定められている期間については、「特定非常災害特別措置法」の適用対象とすることにより、申請により延長可能としました。これらの中には、出願審査の請求(出願日から3年)や拒絶査定不服審判の請求(拒絶査定の送達日から3ヶ月)、拒絶理由通知に対する意見書の提出(通常、拒絶理由通知の発送日から60日)等があります(https://www.jpo.go.jp/news/koho/saigai/20240112_encho_tetsuduki.html)。
これらの期間はいずれも法定期間・指定期間ですが、定められた期間です。一方、特許については、定められていないものの重要な期限があります。新規の特許出願です。意匠登録出願や商標登録出願も同じです。これらは法律でいついつ迄にと定められたものではありませんが、先に出願した方に特許(権利)が与えられるという先願主義の下では、早く出願する必要があります。こちらについては、災害により出願することができなかったという証明を出したとしても、出願日が遡ることはありません。
技術競争が激しい分野では、特許出願も日日(にちにち)の競争となります。発明が完成して、明細書を書き終えたところで災害(特定非常災害)が発生して出願が他社より遅れた、という場合、その発明完成までの研究開発活動が無駄になる可能性があります。出願日ではなく、どちらが先に発明したかで特許の行方が決まる先発明主義ですと、災害が落ち着いてから出願すれば良いのですが、現行特許法(第39条)はそうではありません。米国では10年ほど前までは(日本でも、100年ほど前までは)先発明主義を採用していましたが、「発明した日」を証明することが難しい(特に、2者が競合している場合)ことから先願主義に転換しました。ただ、以前の米国のように全ての出願について発明日を基準とするというような制度の下でも、どちらが先に発明したかで争われるケースはそう多くはなかったようです。特定非常災害ということですとかなり限定した範囲になりますので、その場合に限って先発明主義を取り入れてもよいのでは、と思います。