時間について
少し早いですが、6月10日は時の記念日です。
最近、「人類の起源」(中公新書、篠田謙一著)という本を読みました。次世代シークエンサと呼ばれるDNA解析装置等を利用した最新の(2021年までの!)人類学研究の成果が分かりやすく書かれていますが、驚くべき発見がこれでもかこれでもかと出てきます。何万年も前の考古学的人骨からもDNAを抽出し、分析することができるようになったのがそもそもの大躍進の始まりのようで、全DNAでなくとも、一部のDNAだけからでも系統をたどることができるということから、700万年前の人類誕生以来の猿人、原人、旧人、ホモサピエンスの詳しい枝分かれが明らかにされています。また、ネアンデルタール人の移動、ホモサピエンスの移動、両者の交雑等が見てきたように書かれています。ロシア・アルタイ山脈の洞窟で見つかったネアンデルタール人の14個体の骨のうち2体は父と娘だったと考えられるなど、十万年以上前の親子も解明されました。ルーマニアの洞窟で見つかった約4万年前のホモサピエンスの骨からは、その4~6世代前の祖先においてネアンデルタール人との混血が行われたと推定されています。
2年前、福井県の三方五湖に行ったとき、その一つ水月湖のほとりにある年縞(ねんこう)博物館という施設を見つけました。何となく入ってみると、驚きの世界でした。水月湖というのは静かな湖だそうで、その湖底に20万年かけて厚さ100mもの泥土が堆積しているのが発見されたそうです。そのうち、年ごとの縞がはっきりしている上側45m、7万年分の泥土が掘り出され、展示してありました。夏はプランクトン、春と秋は異なる珪藻が年に0.6~0.7mmずつ堆積して年々の縞模様を作り、その中に43,713±300年前の古富士の火山灰、30,078±48年前の姶良火山灰などが含まれています。その他に、長期に亘る気温変動、地球磁場の変動なども解明されているそうですが、今後、分析技術が進むと、7万年の間の様々な出来事が更に明らかにされることでしょう。
一方、時間の短い方の研究に関する記事も読みました(「18桁精度の可搬型光格子時計を実現したレーザ制御装置の開発」, 島津評論Vol. 78, No. 3・4(2021), pp223-233)。可搬型のストロンチウム光格子時計を開発し、2台の光格子時計を東京スカイツリーの地上1階(Om)と天望回廊(450m)にそれぞれ設置したところ、高低差に対する時間の進み方の違いが測定できたそうです。GPSでは重力による時間補正が必要だとは聞いていましたが、地上でも時間ずれがあることに気付かされました。スカイツリーで待ち合わせをする時には気をつけないといけません。
携帯にくっついている私たちの動きは時々刻々記録されています。集積されてビッグデータとして利用さればかりではなく、個々のデータとしても残ることを考えておかないといけません。後世の人に見られて恥じることのない行動を心がけねば、と考える今日この頃です。