専売特許
中国では特許のことを「専利」といいます。字を見てお分かりの通り、両者は観点が異なります。「特許」は与える方から見ているのに対し、「専利」は貰う方を見ているように思えます。原因と結果(効果)と言ってもよいかもしれません。
日本で最初の知的財産法は明治4年に制定された「專賣略規則」というものですが、この法律名には「特許」という文字は出てきません。しかし、その第1条に「...ハ年限ヲ以官許ヲ與フヘシ」と書かれており、この「官許」はほぼ「特許」と同じ意味です。この専売略規則は、審査体制が整っていないということで実際には施行されず、廃止になりました。その後、明治18年にようやく「專賣特許條例」が改めて制定され、施行されました。ここには「有益ノ事物ヲ発明シテ之ヲ専売セント欲スル者ハ農商務卿ニ願出其特許ヲ受クヘシ」と、「特許」の言葉が出てきます。
英語ではpatentと言いますが、これはletters patent(公開書簡)の略であり、国王が誰かに特権を与えることを世人に知らせるための布告状のようなものです。これは発明に限ったものではなかったのですが、近代の特許制度にもその言葉がそのまま使われているのです。従って、言葉としてはやはり「専利」よりは「特許」に近いものでしょう。
「特許」は字義通り、本来許されないものを「特に許す」ものです。すなわち、例外です。本来は誰もが自由に行えるものを、例外的に誰かに独占させるものです。1日でも早かったというだけで、独自に発明した人をも抑えて、独占販売=専売という強力な権利(専利)を許すというものですから、国王の絶対権力が存在しない現代においては、みんなが納得できる相当の理由が必要となります。
最近のわが国の特許率は約70%(審査請求した出願のうち最終的に特許となったものの割合)とかなり高率となっていますが、出願したものがスンナリと特許になるものはそう多くはありません。様々な修正(補正)を加え、近いとされた従来技術との差異を縷々説明してようやく特許となったものが数多く含まれています。私たち弁理士・特許事務所は、出願人の方の思いを最大限生かしつつ、このような補正や差異の説明を行って特許に持ってゆくという仕事をしています。
さて、晴れて特許になり、独占権を得たとして、その独占権は絶対的なものでしょうか。残念ながら、例外というものには様々な制約があります。その一つが、公共の利益のため特に必要な発明の場合です。新型コロナウイルスの特効薬が開発され、特許出願されたとしますと、現今の状況では恐らく直ちに審査が行われ、スピード特許が与えられるように思います。しかし、せっかく特許となったにも拘わらず、特許権者が十分にその薬を世の中に供給しない或いはできない場合、最終的には経済産業大臣の裁定により、他者が実施をする途が開かれています(特許法93条)。特許庁の説明によると、過去に公共の利益のための裁定がなされた例は無いということで(「我が国における裁定制度について」)、伝家の宝刀として存在するばかりのようですが、今回ばかりはそのような議論が出てくることが期待されます。