世界に一つだけ
私たちが「特許」というと、普通は、iPSや3Dテレビなどの技術的な発明に対する特許を考える。しかし、特許は「特に許す」ということであり、発明に対する特許に限らない。「軌道法」という法律(大正10年4月14日法律第76号)には、「軌道ヲ敷設シテ運輸事業ヲ経営セムトスル者ハ国土交通大臣ノ特許ヲ受クヘシ」(第3条)と、鉄道敷設「特許」が規定されている。
「特許」は英語では「Patent」であるが、これは「Letters Patent」の略で、公開書簡という意味である。すなわち、国王が特定の業者に事業を特に許すために与えた手紙のことであり、これによりその業者がその事業を独占することができるというものである。国王がこのようなLetters Patentを乱発し(当然、その裏には利益の環流がある)、市場を混乱させたため、Patentは、所定の基準を満たした発明にのみ発行されることとなった。これが近代の特許制度の始まりと言われている。
「特許」にせよ「Patent」にせよ、それは「独占」とほぼ同義語である。企業は、多くの資金を投じて開発した自社技術を特許化し、その技術を独占的に実施することにより投資を回収し、収益を上げる。これが特許制度の本質である。
しかし、「特許」の効用はそれだけではない。特許を得るためには、特許庁での審査をパスする必要がある。審査では、出願された発明に新規性や進歩性があるか否かがチェックされる。新規性があるとは、これまでその発明が世の中(世界中!)に存在せず、その発明が最初で唯一のものであるということである。進歩性があるとは、その技術分野の通常の知識を有する人(これを「当業者」という)がこれまでの技術から容易に思いつくことができないほどに進歩している、ということである。特許として認められたということは、その発明が、そのような新規性・進歩性を備えている、ということが認められたということである。
先日JASRAC(日本音楽著作権協会)が発表した、著作権使用料の過去30年間の第1位は、SMAPの「世界に一つだけの花」だった。
特許が認められた技術は、「世界に一つだけの技術」である。中小企業にとって、特許は、独占という効用ばかりでなく、自社の技術が「世界に一つだけ」のものであることをアピールする大きな効用もあることを認識していただきたい。