ヨーロッパ単一効特許および統一特許裁判所について
長年にわたり議論が進められてきましたヨーロッパにおける「単一効特許(Unitary Patent)」制度が2023年6月頃に利用可能となる見込みとなりました。また、単一効特許制度の発効にともない、「統一特許裁判所(Unified Patent Court)」も同時期に運用開始となる見込みです。
【単一効特許制度について】
ヨーロッパで特許権を取得するためには、権利を取得したい国に個別に出願する方法と、複数の国(ヨーロッパ特許条約:EPCを締約した39ヶ国。2023年1月現在)に一つの手続で一括して出願する方法(EPCルート)があります。
EPCルートの場合、出願から審査を経て特許を成立させるまでは一括して行われますが、その成立した特許は、それら複数の国を一括して保護するものではありません。保護を受けたい国を選んで改めて個別に手続(その国の公用語への翻訳など)を行い、その後も毎年個別に手続(年金の納付)を行う必要があります(「現行制度」)。
このような現行制度に加えて、このたび、新たに「単一効特許制度」が近々開始される見込みとなりました(2023年6月頃に開始の見込みです)。単一効特許制度では、EPC締約国のうちEU(ヨーロッパ連合)に加盟している国において、一つの手続で一括して特許による保護を受けることができるようになります。
2023年1月現在、単一効特許制度への参加が決まっている国は、EUに加盟している27ヶ国中17ヶ国です(※1参照)。また、将来参加を予定している国も現在7ヶ国あります(※2参照)。一方、EUに加盟していない国などは参加することができません(※3参照)。
単一効特許制度参加国の中に特許による保護を受けたい国が「4ヶ国以上」ある場合、単一効特許制度を利用した方が費用的に有利とされています。ただし、どのような国を選ぶかによって費用は大きく変わりますので、詳細は弊所までお尋ねください。
※1 参加決定国:
オーストリア、ベルギー、ブルガリア、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、イタリア、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、ポルトガル、スロベニア、スウェーデン
※2 参加予定国:
キプロス、チェコ共和国、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、ルーマニア、スロバキア
※3 不参加国:
クロアチア、ポーランド、スペイン、
EU非加盟国
(アルバニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、カンボジア、アイスランド、モルドバ、モナコ、モンテネグロ、モロッコ、北マケドニア、ノルウェー、サンマリノ、セルビア、スイス・リヒテンシュタイン、チュニジア、トルコ、イギリス)
【統一特許裁判所について】
現行のヨーロッパ特許制度の下では、個別に選んだ国で特許による保護が受けられ、特許に関する訴訟もその国の裁判所で行われます。しかしながら、このたびの単一効特許制度の開始に合わせて、「統一特許裁判所」の運用が始まることになりました。この統一特許裁判所では、単一効特許に関する訴訟はもちろんのこと、現行制度の下で認められているヨーロッパ特許(以下、「従来型特許」と呼びます)に関する訴訟も行われます。
従来型特許については、移行期間として当面の間(運用開始から原則7 年間)、(1)統一特許裁判所に加えて各国の裁判所でも訴訟が行われる、(2)各国の裁判所だけで訴訟が行われる、のいずれかを選択することができます。ただし、(2)を選択するためには、所定の手続を行い、統一特許裁判所の適用を除外しておく必要があります。そのため、この所定の手続のことを「オプトアウト(Opt out)」と言います。
オプトアウトは、運用開始前3月の準備期間(「サンライズ期間」と言います)を含めて上記移行期間の終了まで、従来型特許の登録前(特許出願中)であっても行うことができます。しかしながら、運用開始後に統一特許裁判所へ訴訟が提起されると行うことはできません。また、各国の裁判所で訴訟が行われていない限りいつでもオプトアウトは撤回できますが、撤回後に再びオプトアウトすることはできません。なお、オプトアウトの撤回(「オプトイン」)は、上記移行期間の終了後でも可能です。
統一特許裁判所の利用には、特許紛争処理の一元化に伴う様々なメリットがありますが、一般論として、オプトアウトを行って統一特許裁判所の適用を除外しておく方がよいと考えられます。その主な理由として、①統一特許裁判所の一つの判決により複数の国(統一特許裁判所の参加国)で特許無効となる可能性があること、②オプトアウトを行わないと、上記移行期間中、第三者は統一特許裁判所と各国の裁判所のいずれにも訴訟を提起することができるため、特許権者が法的に不安定な状態に置かれること、が挙げられます。
統一特許裁判所の正式な運用開始時期は現時点で未定ですが、早ければ2023年6月頃と見込まれており、上記準備期間(サンライズ期間)は2023年3月頃に始まる可能性があります。そして、統一特許裁判所の運用が始まると、それと同時に第三者が統一特許裁判所へ訴訟を提起し、オプトアウトを行うことができなくなる可能性があります。そのため、従来型特許(特許出願中も含む)を保有していてオプトアウトを希望する場合は、できるだけ早くに(サンライズ期間中に)オプトアウトを行うことをお勧めします。
上記に関して不明な点等がありましたら、遠慮なく弊所までお尋ねください。