エンブレムと調査
新たに採択された東京オリンピック・パラリンピックのエンブレムは、すっきりとしていて良いと思います。特にオリンピックエンブレムの方は、単色であり、全体として円形という単純な形でありながら、繊細な構造を持っています。その濃い青には深さを感じます。繊細な構造は緻密に計算されているようで、よく見ると対称ではないものの、落ち着いたバランスを感じます。これを使って遊ぶのも楽しそうです(例えば、東京オリンピック・エンブレム・パズル)。
ただ、これを採択するまでに要した労力と費用は並大抵のものではなかったようです。旧エンブレムに要した労力・費用を別にしても、商標調査の費用が約8千万円といわれています。もちろん、これには全世界の登録商標の調査の費用が含まれていますが、これとは別に出願の費用が必要だったと思われます。
先のオリンピック・エンブレムは、既存の登録商標に類似しているということではなく、著作権を侵害していると主張されました。その主張を認める見解は少なかった(私もそう考えています)ものの、他の様々な要因による「世論の高まり」から撤回を余儀なくされました。
著作物は一般に登録されていることは希ですので、調査はほとんど不可能です。今回は、プロセスを最初からオープンにすることにより、いわば世論に調査を助けてもらい、「世論の高まり」を抑えることにしました。これはうまくいったように思います。しかし、商標権を侵害しているということになると、あいまいな世論が相手ではなく、明確な法律問題となるため、調査の抜けは許されません。
商標登録は、「登録」されているから調査は容易です。とはいえ、調査対象の数は膨大です。日本だけでも約180万件登録されており、世界中ではこの数十倍になります。文字(言葉)の場合には検索エンジンも発達しているため、検索は比較的容易ですが、図形(ロゴ)となると、類似を検索するエンジンは未だ開発途上であるため、結局は人間が一つ一つ目で見て判断するしかありません。
2つの商標が類似しているか否かは、それらを同一又は類似の商品に付けたとき(あるいは同一又は類似のサービスに関して使用したとき)に、一般の需要者が間違って求めるか否かによります。すぐにおわかりのように、判断基準が「一般の需要者」という曖昧なものに依っているため、類似しているか否かの判断にはどうしても難しい点が残ります。商品やサービスに付ける商標ではなく、地方自治体の事業や地方自治体自身のプロモーションに使用するエンブレムなどの場合は、誰を基準に判断すればよいのか、更に難しくなります。
従って、そこは経験がものをいうことになります。様々な商品の「需要者」の気持ちになれるよう、日々ネットショッピングを楽しんでいます(見て楽しむだけですが)。